タックスヘイブンのパナマ文書、疑惑の国・人物とそれぞれの動き(簡単なまとめ)
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この記事は更新中です。新たな情報が報道され次第、追記します。
タックスヘイブン(租税回避地)での会社設立を代行したり、オフショア(非居住者向け)企業の合併や資産を管理するパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」が取り扱うオフショア企業20万社以上の1150万文書が昨年、ドイツの南ドイツ新聞に流出した。
「パナマ文書」と呼ばれるこの情報は、現在も少しずつ新たに公開されている。
このリークが伝える内容は非常に大きい。活字になっていない部分から感じ取るべきことも色々ある。
現時点で報道されている内容を、簡単にまとめておこう。
1150万資料に上る「パナマ文書(パナマ・ペーパーズ Panama Papers)」
流出資料は1150万件以上、数十万人分の詳細な顧客資料は過去39年分に上る。 (480万の電子メール、100万の画像、210万のPDF) |
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同文書は不法行為を直接示しているわけではないが、マネーロンダリングや汚職・脱税など、ダミー会社やオフショア口座は所得や資産を隠し、租税を回避する目的で使われた可能性がある。 | |
これらの文書は、ドイツ日刊紙の「南ドイツ新聞(Sueddeutsche Zeitung)」が匿名の情報筋から入手。 | |
国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が100以上のメディアグループに公開。 (ニューヨーク・タイムズはこの中に含まれていない) |
「パナマ文書」公開を担った「ICIJ」とは
創設 | 1997年。 | |
創始者 | 創設者は米国の報道番組「60 Minutes(シックスティー・ミニッツ)」の元プロデューサー、チャールズ(チャック)・ルイス氏。 | |
組織 | 世界65カ国、約190人のジャーナリストが共同で調査報道を行う。 記者や編集者、コンピュータの専門家、公的文書の分析家、事実確認の専門家、弁護士などが協力。 |
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顧問役(8人) | ルイス氏のほか、米ニューヨーク・タイムズの元ワシントン支局長ビル・コバッチ氏、英国の二重スパイ、キム・フィルビーを追った英ジャーナリスト、フィリップ・ナイトレー氏など。 | |
常駐スタッフ | 13人。 オーストラリアのシドニー・モーニング紙やエイジ紙で調査報道を手掛けてきたジェラルド・ライル氏がディレクターを務める。 |
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寄付団体 | オランダのアッデシウム財団、英オープン・ソサエティー財団、米フォード財団など。 |
利用者として名前が挙がった人物や団体
アイスランド、パキスタン、ウクライナなど12カ国の政治指導者、140人以上の大物政治家や友人、親類縁者に関係する企業、また、北朝鮮、シリア、ロシア、ジンバブエの体制を支援して制裁の対象になっている22人がオフショア会社を利用。
ICIJによると、流出ファイルには米国で汚職罪に問われている人物や、麻薬密輸やテロへの関与が疑われる会社・人物の情報があり、また、1977~2015年末にかけて500以上の銀行がパナマの法律事務所モサック・フォンセカとその前身の事務所に顧客向けのペーパーカンパニー設立を依頼した。
ロシア | プーチン大統領と大統領に近しい人物が最大20億ドル(約2220億円)のオフショア取引に関係 |
プーチン・サークル:プーチン側近などのインナーサークルがオフショア会社を使い、20億ドルの取引と融資 | |
中国 | 習近平国家主席の親族 |
中国政治局の現・元メンバー8人 | |
北朝鮮 | 所有者・役員が平壌に居住する「DCBファイナンス」 (米財務省は、同社が北朝鮮指導部に資金を提供し、核兵器開発向けの資金調達を助ける銀行と関連しているとして、経済制裁の対象としている。今回流出の資料で、北朝鮮政府高官のキム・チョル・サム氏と英銀行家のナイジェル・コーウィ氏が所有者だと分かった) |
アイスランド | シグムンドゥル・グンロイグソン首相夫妻 首相辞任 |
アルゼンチン | マクリ大統領がブエノスアイレス市長時代に資産を正しく公開していなかったことを示す情報 |
香港 | ジャッキー・チェン |
スペイン | 国王の伯母 |
リオネル・メッシ選手 | |
ペドロ・アルモドバル映画監督 | |
ウルグアイ | 国際サッカー連盟(FIFA)倫理委員会の裁定部門の委員を務めるフアン・ペドロ・ダミアニ氏 辞任 |
米司法当局に起訴されたエウヘニオ・フィゲレドFIFA元副会長 | |
イギリス | キャメロン首相の父で、国内での納税を回避するオフショア投資ファンドを経営していたイアン・キャメロン氏(2010年に他界) |
1983年に2600万ポンド相当の金塊を強奪した英国のブリンクス・マット強盗事件も「モサック・フォンセカ」と関係 | |
ウクライナ | ポロシェンコ大統領 |
ドイツ | F1シーズン開幕2戦を制してポイントランキングのトップに位置しているニコ・ロズベルグ(メルセデスAMG) |
オーストリア | 2銀行 |
サウジアラビア | サルマン国王 |
シリア | アサド大統領のいとこ |
マレーシア | ナジブ首相の息子 |
当事者「モサック・フォンセカ法律事務所」の主張
? | 共同設立者がCNNとのインタビューで「公開されたのは間違いだらけの偽情報だ」と語った。 |
4月4日 | 「我々の業界は一般社会にあまりよく理解されていない。不幸なことに、一連の報道がその困惑をさらに深めてしまった。我々はデータを盗み出された被害者であり、文書の中にこちらの不法行為を示す情報はない」と主張する声明を発表。 |
4月5日 | 「違法行為」をしていないと弁明し、いかなる文書も廃棄していないと強調。 |
モサック・フォンセカは、タックスヘイブンなどで企業設立支援を扱う法律事務所として、世界第4位の規模といわれる。 今回の流出は、全体の中のほんの一部であると考えていいだろう。 |
各国の調査や動き
ドイツ | 内部資料を入手した南ドイツ新聞(電子版)などは5日、ドイツ西部ケルンの検察当局が、「モサック・フォンセカ」の幹部2人について、脱税ほう助容疑で捜査していると報じた。 |
独誌シュピーゲルは8日、独政府が国外のタックス・ヘイブンを利用した取引がある企業に対する税制優遇措置の撤廃を検討していると報じた。 | |
アメリカ | 米司法省報道官は4月4日、租税回避地への法人設立を代行するパナマの法律事務所の金融取引をめぐる内部文書が流出した問題について、米国の法律に違反する汚職などの行為がなかったかどうか司法省が調査に着手。 |
オバマ大統領は4月5日、ホワイトハウスでの記者会見で、租税回避地での企業設立について「多くは合法だが、確実に問題がある行為だ」と批判。 (オバマ大統領は、企業が書類上の登録地を税金の安い地域とすることで本来担うべき納税義務を回避することへの抑止策を強めており、議会に対して抜本的な対策を打ち出すよう求めている) |
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スペイン | 最高裁の司法筋がAFPの取材に対し、「われわれはその法律事務所に関連し、マネーロンダリングの疑いで調査を開始した」と明らかにした。 |
スウェーデン | 北欧最大の銀行であるノルデア銀行が富裕層顧客の税逃れを助けた疑いについて聴取するため、同行を召喚。 |
スイス | 金融監督当局FINMAは同国の銀行がどの程度関与していたか「明瞭にする」意向を電子メールで表明(調査)。司法当局も調査開始。 |
捜査当局は6日、ニヨンの欧州サッカー連盟(UEFA)本部を家宅捜索。 | |
オランダ | 財務省は、調査でパナマ文書を考慮すると発表。 |
銀行大手ABNアムロ、文書に名前が出た監査役会(取締役会に相当)メンバー辞任。 | |
オーストリア | 金融市場機構(FMA)の広報担当者は Bloomberg の取材に対し電話で、銀行のマネーロンダリング防止策を調査すると明らかにした。 |
オーストリア国内第10位のヒポ・フォアアールベルク州立銀行のミヒャエル・グラハマーCEO(最高経営責任者)辞任。(顧客の資産隠しに関与した疑い) | |
アイスランド | 4月4日、首都のレイキャビクで2万2000人が参加するデモが行われ、首相の辞任を要求(アイスランドの全人口約32万人、同国の歴史上最大)。 5日夕方、グンロイグソン首相が辞任表明(パナマ文書が発端となって辞任した初の現役首相) |
日本 | 菅義偉官房長官は6日午前の記者会見で、「文書の詳細は承知していない。日本企業への影響も含め、軽はずみなコメントは控えたい」と述べた。「世界全体で租税回避について連携している中、今回新たにこうした実態が報道ベースで発表された」と指摘。日本政府として文書を調査する考えはない。 |
フランス | 当局が捜査開始 |
ニュージーランド | 調査開始 |
パナマ | バレラ大統領は6日、実態調査のための独立委員会を設置すると述べた。 |
検察当局は地元メディアに対し、「モサック・フォンセカ」の違法行為が疑われる場合は捜査を開始する意向を示した。 | |
オーストラリア | 調査開始 |
イギリス | 金融行為監督機構(FCA)は、国内20行に、「モサック・フォンセカ」との取引を15日までに報告するよう求めた(調査)。 |
アルゼンチン | 検察当局は7日、マクリ大統領に対して捜査を始めるよう裁判所に要請。 |
否定・反論した人物や団体
ロシア | ロシア政府は、「その公表を通じてロシアを不安定に陥れようとする企ての標的にプーチン氏がなっている」と指摘。 |
中国 | 中国外務省の洪磊(こう・らい)副報道局長は、「根拠がない」と疑惑を否定。(中国国内では、「パナマ文書」の言葉でネット検索ができない状況になっている) |
パキスタン | シャリフ首相の息子フサイン氏は4日、「租税回避地の法人を通じて不要な課税を回避することは、法律上何の問題もない」と反論。 |
ウクライナ | ポロシェンコ大統領は4日、疑惑について「説明責任を果たしている」として自身を擁護。 ポロシェンコ氏は、大統領就任に伴って保有資産の管理運営は、コンサルティング会社や法律事務所に任せていた。ツイッターで「資産の申告や納税、利益相反の問題について真剣に向き合っているのは、ウクライナの政府高官で私が初めてかもしれない」と主張。 |
メッシの家族 | 「メッシはこのような疑惑に一切関与しておらず、報道は誤りであり有害」と声明を出し、報じたメディアに対して法的手段を取ることも検討すると述べた。 |
アイスランド | グンロイグソン首相は、夫人の資産管理を目的とした会社であり、申告が必要な商業活動を行う会社には当たらないと主張。 |
アルゼンチン | マクリ大統領の広報担当は、マクリ氏が関連が指摘された企業の株式を保有したことはないと指摘。 |
日本は400件のリスト、政治家の該当者なし
パナマ文書には、日本国内を住所とする約400の人や企業の情報が含まれている。
ICIJのメンバーに加わる朝日新聞が分析した情報によると、政治家ら公職者の名前は見当たらなかったが、医者や実業家らが資産や利益を租税回避地に移そうと試みていたことがわかった。
ただしこれは脱税行為ではないため、公職者の場合とは事なり、道義的責任を問える類のものではない。
この日本におけるICIJの調査について、詳しくは下のリンク記事をご覧ください。
麻生太郎財務大臣「事実なら公平性を損なう問題。防止に取り組む」
麻生太郎財務相が8日の閣議後会見で以下の発言。
「疑惑が事実であるとするなら、課税の公平性を損なうことになるので問題だ」と懸念。
「BEPSプロジェクト* の成果をきちんとあげると同時に、途上国にもプログラムを広げる。(口座情報自動交換の)国際基準についても多くの国にコミットを促すことが重要だ」と強調し、国際的な租税回避や脱税の防止に積極的に取り組む考えを示した。
* 経済協力開発機構(OECD)の取り組みと「BEPS」
2014年 | 課税逃れ対策として、課税対象となる非居住者の銀行口座の情報を各国金融当局で自動的に交換するための国際基準を策定。 | |
2015年 | 多国籍企業の行き過ぎた節税防止の国際ルール(BEPS)をまとめた。 |
参考文献:ICIJ、時事通信、CNN、Bloomberg、ロイター、BBC、産経、東洋経済オンライン
当事者である「モサック・フォンセカ法律事務所」は「偽情報だ」と語るが、世界中が文書流出に衝撃を受け、捜査や調査に動いている。
パナマ文書の流出元、創立者モサック氏とは
タックスヘイブン(租税回避地)と各国の指導者らの関係を暴いた「パナマ文書」の流出元となった中米パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」の共同創立者の一人で、ドイツ出身の弁護士ユルゲン・モサック氏(68)は、1960年代初めに父親に連れられてパナマに移り住んだ。
パナマで法律を学んだユルゲン氏は、73年に弁護士の資格を取得し、パナマとロンドンで活動。政界に太い人脈を持つパナマ人弁護士のラモン・フォンセカ氏(63)と知り合い、互いの法律事務所を統合して86年にモサック・フォンセカを設立した。その後、事務所は世界に支店40以上、500人以上の従業員を抱えるまでに成長した。
フォンセカ氏は「我々はモンスター(怪物)を作り出した」と、後に記者の取材に誇っていたという。若い頃は聖職者に憧れ、世界の救済を目指してスイス・ジュネーブの国連欧州本部で働いたこともあるという。だが、08年のテレビの取材で当時を振り返り、「何も変えられなかった。もっと現実的な道を歩むと決めた」と語ったという。
出典:朝日新聞
21万の法人と株主名を公開、日本は400(5月9日)
「パナマ文書」に登場する21万余の法人とその株主らの名前が10日午前3時(米国時間9日午後)、「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)のウェブサイトで公表された。ICIJは公表について「公益目的」と説明している。
文書はパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」(MF社)が作成した1150万点の電子ファイル。21万余の法人名と、その株主や役員となっている企業や個人の名前と住所地を公表した。(ブログ主:DBは次項目にリンク)
株主などとして挙げられている延べ37万余の人や企業の住所地のうち、最も多いのは香港の5万4千余、次いでスイスの4万2千余。日本は400余で全体では65番目となっている。
ICIJによると、アフリカに武器を密売しようとした英国人や米国の著名な詐欺師などがMF社の顧客として新たに判明した。
ICIJは政治家など公人に焦点をあてて取材をしている。ジェラード・ライル事務局長はデータ公表について「一般の人たちが私たちの見落としについてヒントをくれるだろうと期待している」と話している。
出典:朝日新聞
これまでに報道された、日本人と日本企業
あまりに記事が長くなったため、ページを分けた。下のリンクからご覧ください。
パナマ文書DB(データベース)
5月9日から利用可能。
https://offshoreleaks.icij.org/
パナマ文書また流出 新たに120万件(2018年6月)
「モサック・フォンセカ(MF)」から、新たに120万件の電子ファイルが流出した。
前回と同様、南ドイツ新聞が入手し、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)を経由して、朝日新聞など各国の報道機関が共有した。多くは2016~17年の2年間に作成されたもので、全部で443ギガバイトある。
新たなファイルからは、MFが、管理する法人の本当の所有者がだれなのかを把握できていなかった実態が浮き彫りになった。報道が始まって間もない頃のMF内のまとめによれば、英領バージン諸島で70%、パナマで75%の法人の所有者が不明だったという。
(中略)
信頼回復を狙い隠蔽工作
今回流出した文書によると、MFは16年9~10月に虚偽文書の作成を企てた。同年4月の「パナマ文書」報道で、アルゼンチンのマクリ大統領とその父らが、カリブ海のバハマの会社役員になっていたことが報じられたためだ。MFはそれを報道まで把握せず、顧客確認を怠っていたことが露呈しそうになっていた。
MFはマクリ氏の会計士に対し、「16年4月より数年前に経営陣を確認していた」という手書きの文書を作成できないかと打診。だが会計士から「リスクが高すぎる。筆跡の専門家が見たらすぐにばれる」と断られ、企ては頓挫した。
(中略)
だがパナマの検事総長は17年2月、ブラジルの国営石油会社を巡る大規模汚職にMFが関与していると指摘。MFを「犯罪組織だ」と非難し、五つの犯罪容疑で捜査を進めていることを明らかにした。またMFは、西インド洋の島国セーシェルの資金洗浄を禁じる法律などに違反していたことも判明した。
MFは16年5月、ジャージー島など3拠点を閉鎖。18年3月には事業を停止した。
メッシ選手にマレーシア前首相…
新たな疑惑が浮上した著名人や各国首脳もいる。
サッカー・アルゼンチン代表のメッシ選手とその父は前回報道の際、パナマの会社を使って肖像権を巡る租税を回避していた疑いが浮上。メッシ氏側はこの時、ICIJの取材に「パナマの会社は全く関係していない」と否定していた。
(中略)
政府系ファンドを巡って捜査対象となっているマレーシアのナジブ前首相も、前回名前が挙がっていた1人だ。今回の文書流出で、MFが英領バージン諸島に登記した会社がナジブ氏の兄弟によって管理されていたことがわかった。同社は米国内に土地を所有する。
またカザフスタンのナザルバエフ大統領の娘で、「後継者」と目される元副首相のダリガ氏は07年10月、英領バージン諸島の会社の一人株主になっていた。同社は複数の会社を経由した上でカザフスタンの精糖工場に出資していた。
仏高級ブランド「カルティエ」の創業者一族であるピエール・カルティエ氏(故人)の相続人にも租税回避の疑惑が浮上した。MFは前回報道の後、カナダの森林とスイス銀行の口座を持つパナマのペーパーカンパニーが相続人らによって管理されていることを17年7月に把握した。一族は仏紙ルモンドの取材に対し、回答を拒否したという。
出典:朝日新聞 2018年6月21日