CNNへの安倍総理大臣寄稿<全文>

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安倍晋三首相は5日、CNNテレビのホームページに寄稿した。

国際協力機構(JICA)やアジア開発銀行(ADB)との連携により、アジアを中心としたインフラ投資を増額する方針を強調。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に対抗する姿勢を明確にした内容だ。

CNN(米国)への安倍総理大臣寄稿

「安倍晋三:世界が直面する3つの大きな課題(Shinzo Abe: 3 big challenges facing the world)」

(2015年6月5日付)
平成27年6月9日
英語版 (English)

先進国と新興国の双方で見られる世界中の成長の停滞は,成長を傍観して待つことはできないということを再認識させる。指導者たちは,彼らの政策のグローバルな影響も意識して,改革,革新を絶え間なく進めなければならない。

しかし,国際社会があまりに多くの課題に直面している中で,我々の優先事項は何か。そして,この優先事項を現実のものにするために,我々はどのように共に取り組むことができるか。これらが,日曜からドイツにおいて開催される今年のG7サミットに集まる,国際的な指導者たちが直面する大きな問題である。

サミットでの議論は幅広いものになるだろうが,私がG7において強調したい重要な課題が三点ある。それは,日本が中心的な役割を果たすことができると信じる課題である。

1 気候変動

G7サミットは,年末のCOP21で国際枠組みを作り上げていく上で,指導者たちが気候変動の戦略を調整できる格好の場である。私は,他のG7諸国に遜色のない目標の設定を目指している。この目標は野心的なものであるが,我々の実施する対策や技術によって達成可能だと確信している。

なぜ他のG7諸国の目標に比べ「遜色がない」が同時に「野心的」なものと言えるのか。サミットにおいて,私は,2030年までに温室効果ガスを直近の排出量と比べて26%削減(2005年の排出量と比較とすると25%削減)するという目標を提示する。これは,直近の排出量と比べて,EUの24%の削減と米国の2025年までの18~21%の削減と比べて,遜色ないものである。

実際に,日本のGDPあたりのエネルギー使用量は,他のG7諸国の平均より約30%少なく,世界の最高水準にある。我々は,これをさらに向上させたい。我々は,2030年までに35%のエネルギー効率の改善を目指す。これは,太陽光で約7倍,風力や地熱で約4倍の増加も含め,再生可能エネルギーの大幅な活用を通して可能だと信じている。

私は,過去の成果に安住せずに,具体的な削減行動に向け邁進し続ける。行動することが重要である。なぜなら,気候変動の深刻さは,先進国,途上国を問わず全ての国にとって,ますます高まる一方だからである。既に先進国を超える温暖化ガスを排出する新興国も現れており,中国・インドなどの大排出国が自らにとっても深刻な問題として,国際的な枠組みの中で削減を約束することが最大の課題である。

日本は,脆弱な途上国が排出に関して改善できるよう支援する。実際,2013年からの3年間で,日本は途上国に対して約160億ドルの支援を約束し,これを約1年半で達成した。緑の気候基金(GCF)に対しても15億ドルを拠出する。この額は米国に次ぐ。また,日本の優れた技術が活用されることで,世界がエネルギー効率を高め,地球全体の温暖化ガスの削減が劇的に進むものと期待する。さらに,私は,世界の産学官によるエネルギー・環境分野でのイノベーションを促進するため「Innovation for Cool Earth Forum(ICEF))」を提唱した。昨年の第1回には80か国から800人の参加を得た。この成功を踏まえ,我々は,今後もこの会合を毎年開催する。

将来世代に美しい地球を引き継ぐことは,現世代の義務であり,私は,日本がその先頭に立つことを決意している。

2 質の高いインフラ

自ら及び将来世代の厚生を高める質の高い成長を持続させるため,途上国は適切な質の高いインフラ整備が必要である。

アジアだけでも年間1兆米ドル程度のインフラ投資の需要がある。質の高い新規のインフラは,一見値段が高くても長期的に見れば,より費用対効果が高く,より長持ちし,より災害に強く,より環境に優しい。

しかし,この投資に資金を投入するための資本を確保することは,民間からの多様な資金動員を意味する。したがって,アジア開発銀行(ADB)による投融資能力の拡大を歓迎する。この努力を支えるため,日本自身も,国際協力機構(JICA)がADBと協力して,アジアの官民パートナーシップ(PPP)のインフラ・プロジェクトに対して,協調融資を含む様々な協働を効率的に行う仕組みを検討する。日本は,グローバルに「質の高いインフラ投資」を推進する。アジアにおいては,ADBと連携して,今後5年間で総額1,100億米ドル規模のイノベーティブなインフラ資金を提供する。

3 保健医療

最後に,途上国の状況を改善する最良の方法は,保健医療を向上させることだと認識しており,世界のトップレベルの医療を有する日本に優位性があると確信している。

既にこの2年間で,アフリカの女性起業家を日本に招へいし,研修やネットワーキングを実施した。モザンビークでは,女性看護師の育成や妊産婦に対する医療改善に協力した。更に日本は,世界の女性が,医療ケア,教育を受けられるよう,2013年から3年間で30億ドルを上回る支援を着実に実施中である。

将来を見越して,NTDs(顧みられない熱帯病)について,日本政府,製薬企業,ゲイツ財団等が出資する研究開発事業を2013年に創設した。

疫病の流行に対する計画の重要性は,エボラ出血熱によって明らかになった。昨年,日本人医師が現地に赴いた。また,日本は総額約1.7億米ドルのエボラウィルス対策のための支援を既に拠出した。高い技術力により,日本は,エボラ出血熱を治療するための抗ウィルス薬を開発し(T-705(ファビピラビル)),また日本の大学が開発したエボラ迅速検査キットを供与した。更に,東京都から提供を受けた防護服(PPE: Personal Protective Equipment)72万着がアフリカ4か国へ供与され,うち2万着は,ガーナまで自衛隊機で輸送された。

保健,インフラそして環境に対するこれらの投資は,新興国また途上国にとっても,状況を改善するのに役立つと私は確信している。来年,日本はG7議長国を務める。しかしその前であっても,エルマウ・サミットの成果を踏まえて,G7の各国首脳と緊密に連携して,これら重要課題について実り多い議論ができることを期待している。
Prime Minister Shinzo Abe’s article contributed to CNN on 5 June 2015

出典:外務省

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