70年談話「21世紀構想懇談会 報告書」ポイントまとめと米中韓の反応
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平成27年8月6日、安倍総理は、総理大臣官邸で「20世紀を振り返り21世紀の世界秩序と日本の役割を構想するための有識者懇談会(21世紀構想懇談会)」による報告書を受け取りました。
非常に中身の濃い報告書で文章量も38ページと長いので、以下、関心が集まっていた事柄のポイントをご紹介します。
このブログでは韓国に対する記述が長くなっていますが、実際の報告書では中韓いずれも4ページほどで同じ位の量です。
韓国の引用が多くなった理由は、内容が率直で驚いたため、そして、日韓関係における問題が簡潔に網羅されているので多くの人の関心事に言及されていると感じたためです。
物凄く簡潔に言うと「韓国は感情的に反応するしゴールポストを変えるから、日本が努力しても否定されるんだよね」というようなことが記述されており、さらに「朴槿惠大統領は、これまでになく厳しい対日姿勢を持つ大統領である」とまで明記されています。
様々な意見を持つメンバーが参加した「21世紀構想懇談会」ですが、よくここまでまとめたなと感じました。お疲れさまでした。
原本をご覧になりたい方は、一番下に首相官邸で紹介されているページのリンクを貼ってありますのでご利用ください。充実した内容ですので、ご一読をお勧めします。
21世紀構想懇談会 報告書 <ポイントのまとめ>
関心が集まっていた事柄のポイントは、以下の通り。
120世紀の歩み | 日本は、満州事変以後、大陸への侵略[1]を拡大し、第一次大戦後の民族自決、戦争違法化、民主化、経済的発展主義という流れから逸脱して、世界の大勢を見失い、無謀な戦争でアジアを中心とする諸国に多くの被害を与えた。
植民地についても、民族自決の大勢に逆行し、特に1930年代後半から、植民地支配が過酷化した。 |
2中国 | 過去への反省をふまえあらゆるレベルにおいて交流をこれまで以上に活発化させ、これまで掛け違いになっていたボタンをかけ直し、和解を進めていく作業が必要となる。 |
3韓国 | 朴槿惠大統領は、就任当初から心情を前面に出しており、これまでになく厳しい対日姿勢を持つ大統領である。
韓国政府が歴史認識問題において「ゴールポスト」を動かしてきた経緯にかんがみれば、永続する和解を成し遂げるための手段について、韓国政府も一緒になって考えてもらう必要がある。 |
4安全保障環境 | 米国の国力が相対的に低下している中、米国がこれまで果たしてきたアジアの安定に絶対的な役割を担うことは難しい。
安全保障分野において日本が今後世界規模で従来以上の役割を担うことが期待されている。 |
そして、これらのポイントを述べている箇所は以下の通り。
21世紀構想懇談会 報告書 <ポイント>
平成27年 8月 6日
1 20世紀の世界と日本の歩みをどう考えるか。私たちが20世紀の経験から汲むべき教訓は何か。
(1)20世紀の世界と日本の歩み
イ 大恐慌から第二次世界大戦へ
日本は、満州事変以後、大陸への侵略[1]を拡大し、第一次大戦後の民族自決、戦争違法化、民主化、経済的発展主義という流れから逸脱して、世界の大勢を見失い、無謀な戦争でアジアを中心とする諸国に多くの被害を与えた。特に中国では広範な地域で多数の犠牲者を出すことになった。また、軍部は兵士を最小限度の補給も武器もなしに戦場に送り出したうえ、捕虜にとられることを許さず、死に至らしめたことも少なくなかった。広島・長崎・東京大空襲ばかりではなく、日本全国の多数の都市が焼夷弾による空襲で焼け野原と化した。特に、沖縄は、全住民の3分の1が死亡するという凄惨な戦場となった。植民地についても、民族自決の大勢に逆行し、特に1930年代後半から、植民地支配が過酷化した。
[1] 複数の委員より、「侵略」と言う言葉を使用することに異議がある旨表明があった。
理由は、
1)国際法上「侵略」の定義が定まっていないこと、
2)歴史的に考察しても、満州事変以後を「侵略」と断定する事に異論があること、
3)他国が同様の行為を実施していた中、日本の行為だけを「侵略」と断定することに抵抗があるからである。
4 日本は戦後70年、中国、韓国をはじめとするアジアの国々とどのような和解の道を歩んできたか。
(1) 中国との和解の70年
ウ 中国との和解の70年への評価
2006年に安倍首相が胡錦濤主席との間で確認した戦略的互恵関係は、両国間の人的交流の促進を謳っている。そして習近平主席はこの理念を受け継ぎ、推進すると明言している。今後中国との間では、過去への反省をふまえあらゆるレベルにおいて交流をこれまで以上に活発化させ、これまで掛け違いになっていたボタンをかけ直し、和解を進めていく作業が必要となる。
(2) 韓国との和解の70年
イ 国交正常化から現在まで
朴槿惠大統領は、就任当初から心情を前面に出しており、これまでになく厳しい対日姿勢を持つ大統領である。この背景には、朴大統領の慰安婦問題に対する個人的思い入れや、韓国挺身隊問題対策協議会のような反日的な団体が国内で影響力があるということもあるが、それに加えて、韓国の中で中国の重要性が高まり、国際政治における日本との協力の重要性が低下していることが挙げられる。
ウ 韓国との和解の70年への評価
韓国の対日観において理性が日本との現実的な協力関係を後押しし、心情が日本に対する否定的な歴史認識を高めることにより二国間関係前進の妨げとなってきたことがわかる。
未だ成し遂げられていない韓国との和解を実現するために我々は何をしなければいけないかという問いへの答えは、韓国が持つ理性と心情両方の側面に日本が働きかけることであると言える。理性への働きかけにおいては、日本と韓国にとって、なぜ良好な日韓関係が必要であるかを再確認する必要がある。朴槿惠政権が中国に依存し、日本への評価を下げたことにより、同政権が日本と理性的に付き合うことに意義を見出していない現状を見てもこのことは明らかであろう。このためには、自由、民主主義、市場経済といった価値観を共有する隣国という側面だけではなく、二国間の経済関係やアジア地域における安全保障分野における日韓協力がいかに地域そして世界の繁栄と安定に重要かといった具体的事例を持って、お互いの重要性につき韓国との対話を重ねていく必要がある。朴槿惠大統領の日本に対する強硬姿勢は最近になり変化の兆しを見せており、経済界における日韓間の対話は依然として活発であるところ、政府間の対話も増やす余地はあると言える。心情への働きかけについては、日本は、特に1990年代において河野談話、村山談話やアジア女性基金等を通じて努力してきたことは事実である。そしてこれら日本側の取組が行われた際に、韓国側もこれに一定の評価をしていたことも事実である。こうした経緯があるにもかかわらず、今になっても韓国内で歴史に関して否定的な対日観が強く残り、かつ政府がこうした国内の声を対日政策に反映させている。かかる経緯を振り返れば、いかに日本側が努力し、その時の韓国政府がこれを評価しても、将来の韓国政府が日本側の過去の取組を否定するという歴史が繰り返されるのではないかという指摘が出るのも当然である。
しかし、だからと言って、韓国内に依然として存在する日本への反発に何ら対処しないということになれば、二国間関係は前進しない。1998年の日韓パートナーシップ宣言において、植民地により韓国国民にもたらした苦痛と損害への痛切な反省の気持ちを述べた小渕首相に対し、金大中大統領は、小渕首相の歴史認識の表明を真摯に受けとめ、これを評価し、両国が過去の不幸な歴史を乗り越えて和解と善隣友好協力に基づいた未来志向的な関係を発展させるためにお互い努力することが時代の要請であると述べた。にもかかわらず、その後も、韓国政府が歴史認識問題において「ゴールポスト」を動かしてきた経緯にかんがみれば、永続する和解を成し遂げるための手段について、韓国政府も一緒になって考えてもらう必要がある。二国間で真の和解のために韓国の国民感情にいかに対応するかということを日韓両国がともに検討し、一緒になって和解の方策を考え、責任を共有することが必要である。
5 20世紀の教訓をふまえて21世紀のアジアと世界のビジョンをどう描くか。日本はどのような貢献をするべきか。
(3)世界とアジアの繁栄のために日本は何をすべきか
米国の国力が相対的に低下している中、米国がこれまで果たしてきたアジアの安定に絶対的な役割を担うことは難しい。かかる状況下、日本もこの地域においてバランスオブパワーの一翼として、地域全体の平和と繁栄に従来にもまして大きな責任を持っていくべきであろう。アジアには、平和、法の支配、自由民主主義、人権尊重、自由貿易体制、民族自決、途上国の経済発展への支援といった諸原則を日本と共有する国が多い。日本にはアジアにおいて、自由主義的なルールの形成を主導し、コンセンサスによって地域のシステム創成をリードしていく意欲が求められる。そして、ルールを作る際には、地域の関係国全てが納得する形で作ることが重要である。
しかし、日本にとっては、第4章で述べたとおり、中国、韓国との間では和解が完全に達成されたとは言えず、和解を達成した東南アジア諸国においても、日本に複雑な感情を抱いている人々も存在する。さらに、その他の歴史問題も残っている。中国、韓国との間では地道に和解に向けた話し合いを続け、同時に東南アジアの国々には過去を忘れずに謙虚な態度で接することが重要である。
当然のことながら、国際社会で日本に求められる役割はアジアにとどまらない。国際秩序の不安定要因が多様化する中においては、米国をはじめとする友好国と協力し、グローバルな課題にもこれまで以上の責任を負うことが求められる。第二章において、戦後日本が国際秩序安定への役割をいかに発展させてきたかを振り返った。21世紀の日本は、この流れを加速させ、更なる責務を負っていく必要がある。国際社会は、1990年代前半から脈々と発展してきた日本の積極的平和主義を評価しており、安全保障分野において日本が今後世界規模で従来以上の役割を担うことが期待されている。今後、日本は、非軍事分野を含む積極的平和主義の歩みを止めず、これを一層具現化し、国際社会の期待に応えていく必要がある。経済面における国際秩序の安定においても日本に期待される役割は大きい。
6 戦後70周年に当たって我が国が取るべき具体的施策はどのようなものか。
(1)「歴史に関する理解を深める。」
ア 近現代史教育の強化
イ 歴史共同研究
ウ アジア歴史資料センターの充実
エ 戦没者の問題への取組
(2)「国際秩序を支える。」
ア 国連改革
イ 貧困の削減
ウ 人間の安全保障
エ 国際社会における女性の地位向上と活躍推進
オ 軍縮・不拡散の推進
カ 文明間対話の促進
(3)「平和と発展に貢献する。」
ア 安全保障体制の充実
イ 自由貿易体制の維持・進化
ウ 日本の知識、経験、技術をいかした国際社会への貢献
(4)「国を開く。」
ア 開放型社会への転換
イ 国際的な人材の育成
ウ アジアとの青少年交流
出典:首相官邸
アメリカの反応
トナー国務省副報道官(記者会見 6日)
日中韓関係への影響注視
「地域諸国の強固で建設的な関係が平和と安定を促進し、米国の利益にもなる」と述べ、日本と韓国、中国の関係改善の観点から、首相談話の内容と影響を注視しているとの認識を示した。
安倍首相が4月に米連邦議会で行った演説に言及し、「過去の歴史問題に関する首相の前向きな発言と、戦後の日本の平和への貢献を(米政府は)歓迎している。歴代首相の見解の継承をめぐる発言に注目した」と指摘。歴代政権の立場継承が、改めて表明されることへの期待感を示した。
出典:産経 2015.8.7 11:01
中国の反応
王毅外相(6日夜)
「侵略かどうかが核心」 戦後70年談話で中国外相が安倍首相を牽制?
「戦争の性質について侵略なのか、それをあいまいにするのか。植民地支配なのか、その事実に向き合おうとしないのか。それが核心的な内容と思う」と述べた。滞在先のクアラルンプールで記者団に述べた。
安倍首相に6日提出された戦後70年談話に関する有識者懇談会の報告書については「まだ読んでいない」として直接の論評は避けた。
王氏は「(戦後)70年を前に被害を受けた国民や国際社会に対して、どのようなシグナルを送るかは日本側が決めることだ」と指摘。その上で、戦争の性質を「侵略」や「植民地支配」としなければ「深く反省するとしても、一体何に反省するのかはっきりしない」との考えを示した。
王氏は「日本の指導者がこの機会をとらえて侵略、植民地支配を行った国の人々と努力を通じて真の和解を行い、未来を切り開くことを願っている」と話した。
出典:共同 2015.8.7 07:08
韓国の反応
韓国政府当局者(6日)
韓国「こじつけの主張だ」と批判 戦後70年談話の報告書提出受け
「一部の内容は一方的で、無理にこじつけた主張だ」と批判した。韓国メディアが伝えた。報告書の中で、韓国の朴槿恵(パク・クネ)政権について「日本と理性的に付き合う意義を見いだしていない」と記載されたことなどを指摘したものとみられる。
聯合ニュースは報告書について、「植民地支配への謝罪の必要性に言及しなかった」と批判、「これにより安倍首相が実際の(戦後70年)談話で、植民地支配や侵略を謝罪しないという見方が強まった」と報じた。
聯合ニュースは「植民地支配について主に事実関係の記述に重点を置いた」と指摘する一方、「(植民地支配が)謝罪の対象であるという認識や判断は示さなかった」と強調した。
出典:産経 2015.8.6 20:44
関連リンク・記事
21世紀構想懇談会 各資料 (首相官邸HP)
//www.kantei.go.jp/jp/singi/21c_koso/
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