【佐藤優】沖縄県知事選挙の結果を受けて (1/2)
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佐藤氏は好きな作家だが、彼の主張の中には納得できないこともあり、沖縄問題はその中の一つだった。これについては私が本土で生まれ育ったからだと思う。基地問題では、現地の人の話を聞き「なんだ、結局怠惰なんじゃないのか」と、正直がっかりしたこともある。佐藤氏のいう「皮膚感覚」で理解できない。佐藤流の脅しや煽りに聞こえることもある。プロパガンダに聞こえることもある。本心はどこにあるのか、最終の目的は何なのか、なかなか理解するのは難しい。
土台無理な話だからもう理解しようとは思わないが、沖縄が感情的に「独立」に向けて走った場合、沖縄にとっても日本にとっても幸せにならないというのは間違いないことだと思う。それを踏まえお互い調整し合うことは非常に大切なことだろう。沖縄の人たちが本心から基地負担を減らしたいと望んでいるのなら、私も本心から、可能な限りその希望を叶えて欲しいと願う。
その点について、改めて明確に述べているので、以下「くにまるジャパン」において前日に行われた沖縄県知事選挙の結果を受けて解説した、佐藤優氏の発言の中からポイントと思える箇所をまとめた。いくつか引っかかるところもあるが、ぜひ読んで欲しい。
沖縄県知事選挙結果について
くにまる:一時は翁長さんがダブルスコアの圧勝ではないかと言われたが、結果、10万票差。翁長さんがおよそ36万票、仲井眞さんがおよそ26万票。この数字をどのように思うか。
佐藤:沖縄の選挙において、10万票の差はかなり大きい。これはかなりの大差。ダブルスコアにならなかった1つの理由は、下地幹郎さん、喜納昌吉さんも出て、この目的は、翁長さんの票を持っていくことだから、そういう力も働いているということ。
くにまる:全体を振り返ってどのような印象を持っているか。
佐藤:当初の予測より、非常に沖縄全体がまとまっていて翁長さんでいこうという雰囲気だった。仲井眞支持陣営のほうで、恐らく本土から来ている街宣車、排外的なスピーチをする人が来ていた。これが沖縄で非常に顰蹙を買っていたのも、報道には出ないが今回の特徴だった。それによって仲井眞さんは票を減らしたのではないか。
くにまる:土曜日の夜、翁長さんの最後の演説で「こんな選挙は初めてだ」と言った。県内のことよりは東京に対し、安倍政権に対するアピールも随分意識的にしているようだが。
佐藤:安倍政権に対するアピールと共に、アバマ政権、さらに国連に対するアピールをやっている。琉球語での表現を使って選挙で呼びかけたのも、私が知る限り初めて。
仲井眞さんにしても翁長さんにしても私にしても、沖縄人であり日本人であり、日本人であり沖縄人でありっていう意識がある。普段は沖縄系日本人と思っている。
ところが何か大きなことがあると移動して、仲井眞さんの場合には沖縄人性というのが全くない完全な日本人、もはや琉球の伝統は引いていないという位の過剰な日本人的感覚になっちゃった。
対して翁長さんは、沖縄系日本人から日本系沖縄人位の感覚に変わったんだと思う。これは私の自己意識の変わり方と同じくらい。ですから皮膚感覚で分かる。
ただし、このさらに左側があり、それは日本性というのはない。我々は完全な琉球人なんだ、沖縄人なんだという人も極一部にいる。
沖縄というのは、アイデンティティー、自己意識の問題が非常に難しい中で、翁長さんが何をやろうとしているかというと「日本と沖縄が仲良くやっていく、すなわち日本と沖縄の『国家統合』を維持して頑張っていこう」という、私はここのところに感銘を受けている。
くにまる:国家統合?
佐藤:そうです。あまりにも今の日本政府、安倍政権、あるいは菅官房長官が、沖縄の気持ちが分からないだけでなく乱暴なんですよ。そうすると沖縄が日本から離れて行って、最終的に分離・独立という方向に行ってしまう。
それが沖縄にとって必ずしも幸せなことにならないんだよと思っている沖縄の保守の人達は多い。そうすると「いい加減歩留まりをつけようよ」と。0.6%の陸上面積しかない沖縄に、74%の海兵隊基地多いでしょと。しかも海兵隊基地はもともと沖縄になかったんだよと。これは岐阜とか山梨にあったんだと。1960年代の日本国憲法が施工されていない沖縄だったら持って行けるということで持ってったと。
そういうこと考えるともう少し沖縄の負担を減らしてください、ほんのちょっと減らして下さいという運動なんです。だから、安保反対とか全然言ってない。それで辺野古に新基地を作るって言ったって、キャンプシュワブの滑走路を伸ばして基地の中で済ますのがいつの間にか埋め立てになって、航空母艦もつけられるような巨大基地ができると。何%減るんですか、この巨大基地出来て仮に普天間返して。0.25%なんですよね。こんなのじゃ納得できないし、もうまやかしは止めようというのが沖縄のコンセンサスだった。最初は仲井眞知事も一緒だった。ところが去年の終わりに態度をコロッと変えて「いい正月になる」と言い出して、沖縄県民が怒り心頭に発した。
くにまる:「いい正月になりそうだ」でカチンときたという人は、沖縄で話を聞いても多かった。
佐藤:私はこういう印象を持っている。東京に呼ばれた時に、窓のない部屋に呼ばれて厳しいことを言われたんじゃないかと。それで人間として相当弱ってしまったんじゃないかと。そういう異常なハイな感じでしたよね、あの時。それを見ると我らは悲しくなるんですよ。なんであそこまで一生懸命やってた知事が、あの一瞬でだらしない感じになっちゃうの?そのだらしなさは、自分の中のだらしなさを見るような感じがする。だから私はあんまり仲井眞さんのことを悪く言いたくないんです。
くにまる:翁長さん、仲井眞さんの事務所に伺って、それほど撃対しているような感じでもなかったが。
佐藤:真剣にやるときはソフトにやりますよ。相手の心を考えてやってるんで。たぶん、翁長陣営に行きそうなところをリストアップして電話してたんだと思いますけどね。いずれにせよ、ある種の礼儀を守ってる感じはしましたね。ただし、外から来た街宣車のヘイトスピーチ系は、これまで沖縄になかったからみんなに聞かれる。「ああいうのってよく東京ではあるんですか?」と。沖縄にとっては新鮮な驚きだった。
くにまる:翁長県知事は対東京に対してどのようなスタンスで臨むのか。
佐藤:翁長さんも大いなる常識人で自民党の人ですからね。東京とのパイプは持っているが今の官邸がどういう対応で出るかによっては、頭を下げないでしょうね。
12月9日まで仲井眞さんが知事の権利を持っている。防衛省が工事加速のためにいろいろなことをお願いしている。ポンポンと判を押して辞めていく危険性がある。民意は示されている以上、仲井眞さんは事務手続きだけに徹し政治がらみのことはしないことを強く望む。
沖縄のマスメディアの方も聞いていると思うが、そこのところを協調するというのが、東京・沖縄の関係をより複雑にしないのに重要だ。
くにまる:事務手続きだけに徹して、政治絡みのことはしないで欲しい。
佐藤:はい。アメリカの大統領でも選挙後は大きな政治決定に関することはしない。
くにまる:翁長さんが知事になった場合、沖縄県庁から2人ワシントン駐在員を置きたいと言っていたが。
佐藤:スコットランドからはEUに代表が送られている。スコットランドは独立国ではありません。基地問題は沖縄にとって重要。審議に参加するのではなく、アメリカと日本の間でどのような交渉をしているか聞くオブザーバーとして、翁長さんが求めてくると私は見ています。要するに情報を知ったうえで判断するということ。そして裏交渉をさせないということ。
くにまる:アメリカ議会の関係者がどの位沖縄のことを思っているか。沖縄をアピールしたほうがいいんじゃないかという声もありますね。
佐藤:あります。70歳代以上の人達に金門会とういのがある。これはアメリカ留学組なんです。その人達が付き合っているアメリカの政治エリートが結構いる。他にも沖縄独自に持つ人脈がある。
翁長さんは国連総会の第三委員会(人権)で沖縄が置かれている状況に関する大きな演説をやると思います。それで国際社会の目を向けることにより、辺野古移設には相当無理があるんだとうことをアピールしていくと思う。
文化放送 くにまるジャパン(11月17日)より
私は沖縄と本土の間にこれ以上の亀裂が入ることは全く望まない。佐藤氏は沖縄を代弁しようとしているのだろうが、だからこそ佐藤氏の発言にはいくつか疑問もある。
素朴な疑問1「仲井眞陣営の人々が、ヘイトスピーチの街宣車で排外的なことを言ったり仲井眞氏を応援して顰蹙を買い、仲井眞氏が相当票を減らした」とのことだが、現段階で仲井眞陣営と断定する事に疑問に感じる。次の(2/2)で佐藤氏自らも「何故こういうことが起きたのか、本土側でよく検証をして欲しい」と語っているが、私も素朴にどういう立場・思想の人達なのかを知りたい。
しかし検証して欲しいと言いながら、「仲井眞陣営の人々が」とか「おそらく本土から来た」などと、現時点で憶測によって対立を煽りかねない発言をするのは何故なのか。
素朴な疑問2 仲井眞氏が基地移転の意見を翻したことに対し、「私はこういう印象を持っている。東京に呼ばれた時に、窓のない部屋に呼ばれて厳しいことを言われたんじゃないかと。それで人間として相当弱ってしまったんじゃないかと」と語っている。こういった印象論は何なのだろうか。
このようなイメージを提示しながらの印象論は、それが事実であるかどうかに関係なく、聞く人の記憶に強く残る危険がある。「なんとなく、怖いイメージ。嫌いなイメージ」と無意識に転換されていく。こういう手法を利用するのはいかがなものだろうか。
それとも佐藤氏は決定的な確証を得ているのだろうか。