東京都知事選で明るみに出た “都議会のドン” 内田茂
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東京都知事選は自民党都連の思惑に反し小池百合子元防衛相(63)が勝利した。
まず、簡単に結果を振り返ろう。
東京都知事選を振り返る
2016年7月31日執行。
選挙結果
候補者名 | 得票数 | 得票率 | 惜敗率 | 供託金 |
---|---|---|---|---|
小池 百合子 | 2,912,628 | 44.49% | ||
増田 寛也 | 1,793,453 | 27.40% | 61.58% | |
鳥越 俊太郎 | 1,346,103 | 20.56% | 46.22% | |
上杉 隆 | 179,631 | 2.74% | 6.17% | 没収 |
桜井 誠 | 114,171 | 1.74% | 3.92% | 没収 |
マック赤坂 | 51,056 | 0.78% | 1.75% | 没収 |
小池百合子氏曰く「崖から飛び降りる覚悟で」選挙戦に臨んだその姿は、野党連合よりも自民党都連と対比され白熱した・・・かに見えた。
都知事選挙投票率一覧
昭和22年4月5日 | 61.70% |
昭和26年4月30日 | 65.20% |
昭和30年4月23日 | 59.63% |
昭和34年4月23日 | 70.12% |
昭和38年4月17日 | 67.74% |
昭和42年4月15日 | 67.49% |
昭和46年4月11日 | 72.36% |
昭和50年4月13日 | 67.29% |
昭和54年4月8日 | 55.16% |
昭和58年4月10日 | 47.96% |
昭和62年4月12日 | 43.19% |
平成3年4月7日 | 51.56% |
平成7年4月9日 | 50.67% |
平成11年4月11日 | 57.87% |
平成15年4月13日 | 44.94% |
平成19年4月8日 | 54.35% |
平成23年4月10日 | 57.80% |
平成24年12月16日 | 62.60% |
平成26年2月9日 | 46.14% |
平成28年7月31日 | 59.73% |
報道では「投票率が上がった」と強調されていたが、こうして推移を見てみると顕著に高いわけではない。自分の中では盛り上がっていたが、世間の関心はこんなもんか・・・。
しかしわたしは、今回の選挙に大きな意義を感じた。硬直していた政治の闇の部分が暴かれ始めたからだ。
それは小池百合子氏の暴露に始まり、猪瀬元知事の更なる暴露で拡散されることとなる。
明るみに出た “東京のドン”
小池百合子出馬会見「誰かにとって都合が悪くなると都知事が降ろされる」
東京都連にブラックボックスがある。
猪瀬直樹氏、舛添要一氏が降ろされたのは、誰かにとって不都合だからだ。
7月6日、自民党の小池氏が国会内で記者会見し、正式に立候補を表明した。
その際に語られた言葉が印象に残った人は多いだろう。
東京についていうと、東京都連の一員に名を連ねてきたが、正直申し上げて、どこで誰が何を決めているのかということが不透明なことが多かった。そんな思いだ。ブラックボックスのような形だった。
また、この思いというのは、都連に所属している各級の議員に共通する思いで、都連と一くくりにされるが、一人一人に聞いてみてください。いろんな思いがある。そのことをぜひ申し上げておきたい。
そしてなぜここ2代、猪瀬直樹さん、舛添要一さん、短期間で知事が替わってきたのか。舛添さんの湯河原に毎週行くというのは論外だが、お二人とも大変有能でビジョンも明確なものをお持ちだ。ところが、いつしかこのような状況に短期間で陥ってしまうのはなぜなのか。そのことも考え合わせていかなければならない。
つまり、誰かにとって都合が悪い、もしくは不都合なときに捨てられるということが続いてきたように思う。
この発言は凄い内容だ。
自民党に刃向かって立候補したうえ、猪瀬直樹氏と舛添要一氏を2代続けて辞任に追い込んだドンを敵に回す発言。
この戦いに敗れれば本当に後はない。というか、勝っても負けてもその先は地獄ではないか・・・まさに崖から飛び降りる覚悟だったろう。
話は逸れるが、民進党代表戦に立候補する蓮舫議員が「(小池氏の)崖や、(増田氏の)スカイツリーから飛び降りるくらいでなく、富士山から飛び降りるくらいの覚悟で行きます」と語ったが、ちゃんちゃら可笑しい。
猪瀬直樹元都知事の暴露
しかし小池氏の発言だけでは、都民や国民は「東京都連に闇があるんだな」というところでとどまり、具体的な対象も分からない。だから、人々の記憶から薄れる可能性もあった。
そこで登場したのが、猪瀬直樹元都知事。
猪瀬氏は7月13日、『猪瀬直樹が語る「東京のガン」』と題した記事をニュースメディア「News Picks」に投稿する。
そこで “都議会のドン” と呼ばれる自民党の内田茂都連幹事長を名指しで批判し、2011年7月1日に自殺した樺山卓司都議(享年63)を追い込んだのは、内田茂幹事長の陰湿ないじめにあると書いたのだ。
その後17日、樺山都議の遺書画像と共に同様の内容がツイッターでつぶやかれ、拡散されることとなる。
NewsPicsに猪瀬ロングインタビュー「東京のガン」あり。「自民党の皆さん、旧い自民党を破壊してください」内田茂幹事長の陰湿ないじめに耐えられず自殺、樺山都議の遺書、擲り書き切ない。 https://t.co/oD2ZCRkiTS pic.twitter.com/T0nDZHPJ17
— 猪瀬直樹/inosenaoki (@inosenaoki) 2016年7月13日
猪瀬氏はこの遺書を、故・樺山都議の親族から見せてもらったと語っている。
画像では見にくいが、この遺書には、
これは全マスコミに発表して下さい。内田、許さない!!
人間性のひとかけらもない内田茂。来世では必ず報復します!御覚悟!!
自民党の皆さん。旧い自民党を破壊して下さい。
と書かれている。
この暴露は小池氏の援護射撃となるうえ、故・樺山都議への弔い、また、もしかするとご親族への慰めにもなるかもしれない。
しかし本人が全マスコミに発表して下さいと書いているのに、公に出たのは5年後。ご遺族の意思でないとすれば、ここにも闇を感じる。
石原慎太郎・石原伸晃 親子の本性
7月26日、党本部では増田寛也元総務相の決起大会が開かれた。
その際、石原慎太郎元都知事は「あの人はうそつきだ」などと小池氏を非難。
「私の息子も苦労しているが、都連の会合に一回も出てこずに、都連がブラックボックスなんて言ってはいけない」と伸晃氏を援護した。
そして、「厚化粧の女に任せるわけにはいかない」と差別発言まで飛び出す始末。
石原伸晃氏は「小池氏は私がいないときに推薦依頼を持ってきて、私がいないときに推薦依頼を引き取っていった」と批判。小池氏を「わがままだ」と断じ、増田氏への支援を呼び掛けた。
これに対し小池氏は、日刊ゲンダイのインタビューで、なんと石原慎太郎氏は四男の事業を都の事業に復活させて欲しいと小池氏に懇願したと語っている。
――それにしても、なぜ今回なのでしょう。石原慎太郎元都知事に前回選挙での出馬を打診されたことがあったとか。小池百合子氏:
石原さんに「虚言癖の厚化粧」と言われて、本当に驚いていますが、石原さんから話があったのは事実です。それで、〈都知事になったら何をしたらいいんですか〉と尋ねたら、四男さんの(関係していた都の)事業か何かを猪瀬さんが止めたとかで、イの一番に出てきたのが〈それを復活させてほしい〉でした。ビックリしました。本当にいいお父さんですよね。
出典:日刊ゲンダイ 2016年7月27日
これも大変な暴露ではないだろうか。
小池氏の発言が本当だとすれば、石原家も都連の利権側にいた人間だということが分かる。差別主義者で、都合が悪くなると口汚く嘘を言う人であることも。
石原慎太郎氏は、現役時代からいざとなると都政や国よりも息子の利権を選ぶ節は多々あった。言うことはご立派だが、それよりも前に “いいお父さん” なのだ。
最近は皮肉を理解しない人が増えているそうなのでもう少し率直に言うと、石原慎太郎氏は立派な理想を語っても己がその理想のために犠牲になるようなことは決してしない。いざとなって選択するのは理想より利権。そして彼は差別主義者で、人の痛みや異なる考えを理解しようなんて気はさらさらない。
わたしは石原氏の文才は認めるが、政治家としては認めない。
安倍政権の思惑
選挙応援に駆け付けなかった安倍首相
安倍首相は、最後まで増田氏の選挙応援に駆け付けなかった。
メディアなどの話によると、自民党東京都連の石原伸晃会長を始めとする増田氏陣営からは何度も打診があったというが、結局、安倍首相からは1分45秒の短い動画メッセージがあっただけ。
選挙戦最終日の30日、安倍首相の応援があるのではと待ち構えた報道陣の前にも姿を見せず、選挙カーの上には菅義偉官房長官(67)、茂木敏充選対委員長(60)、石原伸晃都連会長(59)らが駆け付けた。陣営スタッフの中には、内田茂都連幹事長(77)の姿もあったという。
この日、当の安倍首相は東京都内のホテルで、おおさか維新の会の橋下徹前代表と会食している。菅義偉官房長官とおおさか維新の松井一郎代表、馬場伸幸幹事長も同席した。
小池氏処分をけん制する二階俊博幹事長
二階氏は幾度がメディアに顔を出し、小池氏処分をけん制する発言を繰り返している。
自民党の次期幹事長に内定している二階俊博総務会長は2日の記者会見で、東京都知事選で自民党推薦候補を破り当選した小池百合子知事について「関係改善が必要ないという意見なんてありうるわけがない」と述べ、同党都連が検討している除名などの重い処分に慎重姿勢を示した。
二階氏は「小池知事に都民の圧倒的な支持があったことは事実だ。選挙の結果だから、自民党もこれを厳粛に認めることが大事だ」と述べた。一方で、総務会での意見として「党としての規律や今後の対応もあるので、一定の冷却を置きながら関係改善を図るべきだという意見が大勢を占めた」と紹介し、当面は小池都政を静観する考えを示した。
出典:産経ニュース 2016.8.2 14:09
8月3日に出演したBSニュースプライムニュースでも同様のことを語っていた。
ちなみに、都連の公式ホームページでは自民党都連の通達に反して応援した同党の若狭勝衆院議員(比例東京)の名前が、議員一覧から削除され、都知事については「※」と表記され、小池氏の名前がない。
政府と東京都連の溝を感じざるを得ないし、やればやるほど小池氏に同情票が集まるだけなのに、大人げない上、政治家としてセンスがない。
小池氏に対する安倍首相の行動は、都知事選から一貫している。
思えば大阪都構想の選挙も、自民党議員の発言は市民感覚と乖離し、利権や立場にしがみついているようにしか見えなかった。<我々は努力している! 無駄に遣っている金はない!>というようなことを言っていたが、大阪都構想への賛否とは別に、そんな自民党議員の発言には心底うんざりした。
安倍首相も、都議会を始めとする地方議会の改革を望んでいるのではないか。
政府側としては、オリンピックなどの重要案件もあるし、小池氏と連携する判断を下したのだろう。安倍首相は「連携することが民意だ」と語っていたが、本当にその通り。都議連だけが意固地に浮いている。
わたしは小池氏当選の場合、政府との連携だけを危惧していたので今はホッとしているところだが、国政だけでなく地方議会にも関心を持って見張らなくてはいけないということがよく分かった。
あれだけ厳しく追及された舛添要一前都知事が辞任に追い込まれた後の、見事なまでのスピーディな幕引き。あれを見て疑問に感じた国民は多いだろう。
何も明らかにならないままでは、都民も国民も納得しない。ブラックボックスを透明化させるのには、国民が目を光らせている必要がある。国民が関心を持てば、メディアも働くだろう。