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【北方領土問題・プーチン来日】日露首脳会談ポイントとまとめ・声明<全文>・政府間文書など(結果)

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日露首脳会談のポイントとまとめ、プレスリリース声明、政府間文書などをまとめました。

POINT
声明には、日本とロシアによる共同経済活動において北方四島すべてが明記され、これが平和条約の締結に向けた重要な一歩になり得るとしている。
経済プロジェクトにおいて「国際約束の締結(外務省筋によると‘条約’を想定、ロシア語文書では‘国際条約’と記載されているとのこと)」を含む
日露首脳共同記者会見の質疑応答でプーチン大統領が初めて「平和条約が最も大切」と発言。2島返還の道筋にも言及した。
平和条約問題に関する日本国及びロシア連邦の立場を害するものではない
シリア問題でプーチン大統領が「アレッポの問題を含め、地域の国々や米国とも話し合いながら解決に向けて努力する用意がある」と発言。

プーチン・ロシア大統領の訪日(結果)

12月15日~16日、ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン・ロシア連邦大統領(H.E. Mr. Putin, Vladimir Vladimirovich, President of the Russian Federation)が実務訪問賓客として山口県長門市及び東京を訪問しました。

概要は以下の通りです。

1 日程

(1)山口県長門市での日程

日露首脳会談
少人数会合(約75分)
1対1のテタテ会談(双方の通訳のみ同席)(約95分)
夕食会(約110分)

【北方領土問題・プーチン来日1日目】安倍首相会見<全文>

(2)東京での日程

日露首脳会談:ワーキング・ランチ(双方企業関係者も出席)(約70分)(於:官邸)
文書交換式・共同記者会見(於:官邸)
日露ビジネス対話(於:経団連会館)
講道館における行事

【北方領土問題・プーチン来日】プーチン2島返還道筋に言及、日露共同記者会見<全文>

日露首脳会談まとめ

(1)平和条約締結問題

 両首脳二人の間で,ソチ,ウラジオストク,リマでの会談を踏まえ,元島民の方々の故郷への自由な訪問,四島における日露両国の特別な制度の下での共同経済活動,平和条約問題について率直かつ非常に突っ込んだ議論を行いました。元島民の方々から託された手紙をプーチン大統領に直接伝達しました。

 議論の結果,平和条約問題を解決する両首脳自身の真摯な決意を表明するとともに,四島において共同経済活動を行うための特別な制度に関する協議の開始に合意しました。北方四島の未来像を描き,その中から解決策を探し出す未来志向の発想の「新しいアプローチ」に基づき,平和条約締結交渉の枠の中で今後協議しました。また,元島民の方々が自由に墓参・故郷訪問したいとの切実な願いを叶えるため,人道上の理由に立脚して,あり得べき案を迅速に検討することで合意しました。

(2)安全保障

安倍総理から,アジア太平洋地域の安全保障環境が一層厳しさを増す中で,日露両国が相互に安全保障上の関心事項につき率直な意見交換を行うことが重要である旨発言しました。
両首脳は,両国の安全保障会議間の対話や防衛交流が行われていることを歓迎し,今後もこれらの対話や交流を継続することで一致しました。

(3)経済

 両首脳は,8項目の協力プランの具体化の進展を確認しました(「作成文書」参照)。

安倍総理から医療では健康寿命の延伸や子供向け医療等の協力に向けた協議の進展都市づくりではヴォロネジ,ウラジオストクでのパイロット事業等の協力エネルギーでは原発の廃炉や風力発電の導入促進等の協力産業多様化では生産管理に関する訪日研修の来年実施極東では温室野菜栽培事業の拡大先端技術協力では農産物乾燥保存技術等の協力等を紹介しました。今後更に8項目の協力プランの具体化を推進することで一致しました。

 租税条約改正の交渉開始で一致したことを確認し,日露経済発展の基盤整備を更に進めて行くことで一致しました。ロシア産の加熱処理済みの牛肉,豚肉等の日本向け輸出の解禁で一致しました。

(4)人的交流

 今次訪日に合わせ,我が国のロシア人向け査証緩和措置を公表しました。

 安倍総理から,2018年の「ロシアにおける日本年」「日本におけるロシア年」の実施決定,大学間交流及び青年交流の倍増とスポーツ交流の3倍増,地域間交流の活性化等の成果を確認し,日露関係の更なる発展につなげていくことで一致しました。
日本政府観光局(JNTO)のモスクワ事務所の開設も確認しました。

(5)国際情勢

ア 北朝鮮

安倍総理から関連安保理決議の全面的かつ厳格な履行が重要,拉致問題の早期解決に全力を尽くす決意は不変,諸懸案の解決に向けてロシアと協力していきたい旨発言しました。

プーチン大統領から北朝鮮に対し圧力をかけるとともに,六者協議の対話の場に導き出すことが必要との発言しました。

イ シリア

安倍総理から,人道状況の更なる悪化への懸念を伝えつつ,敵対行為の停止,人道支援の実施が重要として,ロシアの建設的な対応を強く求めました

これに対しプーチン大統領は,ロシアは,選挙により選ばれたアサド大統領を支持している旨述べつつ,アレッポの問題を含め,地域の国々や米国とも話し合いながら解決に向けて努力する用意があると述べました。

ウ ウクライナ

安倍総理から,情勢改善にはミンスク合意の履行以外に道はなく,全ての関係国の建設的な対応に期待する旨発言しました。

プーチン大統領は,ミンスク合意の履行に向けてウクライナを含む関係国がしっかり取り組む必要がある旨発言しました。

エ 中央アジア

安倍総理から,中央アジア諸国も含める形でロシアと共同で行った麻薬対策研修が成功裏に終了した旨言及し,両首脳は,今後も中央アジアにおける日露の協力を進めることが有意義との点で一致しました。

作成文書

(1)プレス向け声明

北方四島における共同経済活動,平和条約締結問題

安倍晋三日本国総理大臣及びV.V.プーチン・ロシア連邦大統領は,2016年12月15日-16日に長門市及び東京で行われた交渉において,択捉島,国後島,色丹島及び歯舞群島における日本とロシアによる共同経済活動に関する協議を開始することが,平和条約の締結に向けた重要な一歩になり得るということに関して,相互理解に達した
かかる協力は,両国間の関係の全般的な発展,信頼と協力の雰囲気の醸成,関係を質的に新たな水準に引き上げることに資するものである。

安倍晋三日本国総理大臣及びV.V.プーチン・ロシア連邦大統領は,関係省庁に,漁業,海面養殖,観光,医療,環境その他の分野を含み得る,上記1に言及された共同経済活動の条件,形態及び分野の調整の諸問題について協議を開始するよう指示する。

日露双方は,その協議において,経済的に意義のあるプロジェクトの形成に努める。調整された経済活動の分野に応じ,そのための国際約束の締結を含むその実施のための然るべき法的基盤の諸問題が検討される。

日露双方は,この声明及びこの声明に基づき達成される共同経済活動の調整に関するいかなる合意も,また共同経済活動の実施も,平和条約問題に関する日本国及びロシア連邦の立場を害するものではないことに立脚する。

両首脳は,上記の諸島における共同経済活動に関する交渉を進めることに合意し,また,平和条約問題を解決する自らの真摯な決意を表明した。

元島民による墓参等

ロシア連邦大統領の日本国公式訪問の枠内で2016年12月15日-16日に行われた交渉において,両首脳は,両国の人的交流のための良好な条件の創設に賛意を表した。

特に,1986年7月2日付けの日ソ間の合意に基づいて実施されている,先祖の墓を訪問するための日本人の元住民の往来に関するテーマが触れられた。

双方は,人道上の理由に立脚し,上記合意の実施の制度は,何よりも往来への日本人参加者が高齢であることを考慮した改善を必要としていることで合意した。
この関連で,両首脳は,両国外務省に対して,追加的な一時的通過点の設置及び現行の手続の更なる簡素化を含む,あり得べき案を迅速に検討するよう指示した。

双方は,これに関するあらゆる問題について対話を継続することで合意した。

(2)政府・当局間文書

「ロシアにおける日本年」及び「日本におけるロシア年」の開催に関する政府間覚書,2017年の日露外務省間の協議計画の他,医療・保健、エネルギー,産業多様化,極東開発,先端技術協力等の分野で合計12本の文書に署名しました。

(参考)政府間・当局間文書一覧

<政府間>
 「ロシアにおける日本年」及び「日本におけるロシア年」の開催に関する日本国政府とロシア連邦政府との間の覚書
<政治・外交>
2017 年の日本国外務省とロシア連邦外務省との間の協議計画
<健康寿命の伸長に役立つ協力>
日本国厚生労働省とロシア連邦保健省との間の医療・保健分野における協力覚書
<石油・ガス等のエネルギー開発協力,生産能力の拡充>
日本国経済産業省とロシア連邦天然資源環境省との地質分野及び地下資源の利用に関する協力覚書
エリガ石炭コンプレクス発展分野における協力に関する日本国経済産業省とロシア連邦エネルギー省との間の協力覚書
原子力の平和的利用における協力覚書
<ロシア産業の多様化促進と生産性向上>
ロシア企業の生産性診断に関する対象企業の特定及び裾野産業の人材育成に係る対象企業の特定に関する覚書
<極東における産業振興,アジア太平洋地域に向けた輸出基地化>
ロシア連邦極東における二国間協力分野における協力に関する日本国経済産業省とロシア連邦極東発展省との間の覚書
<日露の知恵を結集した先端技術協力>
情報通信技術及び郵便分野における日本国総務省とロシア連邦通信マスコミ省との間の協力に係る覚書
農業及び水産分野における協力の強化に関する日本国農林水産省とロシア連邦農業省との間の覚書
産業財産権に関する日本特許庁及びロシア特許庁間の協力覚書
<その他実務案件>
ロシアから日本向けに輸出される加熱処理偶蹄類肉等の家畜衛生条件

(3)企業等の間の文書

8項目の協力プランのそれぞれの項目の下で、企業等が行うプロジェクトに関する合計68件の文書に署名しました。

出典:首相官邸外務省


わたしは日露共同記者会見の後、日本にもメリットがあると書きました。

しかしそれでも重い気持ちになってしまい、頭と心が整理できず、その後記事から事実だけを残してわたし自身の意見は削除しました。
それから少し時間を経て、この記事をまとめながら改めて文書をじっくり読んでみると、後から騙し討ちができないよう、きちんと詰められた内容ではないかと落ち着いてそう思えるようになりました。また、ロシア側の世論にかなり配慮をしていた跡も伺えます。

もちろん共同経済活動のルール作りは果てしなく難しさを感じますが、少なくとも「(ロシアの)食い逃げ」とか「日本の負け」ということではなく、世界情勢や経済、そしてエネルギー問題を考えるとき、日本にとってもメリットがあるというのは決して間違った意見ではなかったのではないかと、現段階では思っています。

安倍首相はその後のテレビ出演で、「日本とロシアが平和条約を結んで安全保障分野でも連携できるようになれば、日本の立場はもちろん強くなる」「(プーチンが)私を信じてもらいたい」という趣旨の話をしていたことを明かしました。

日本人にとってロシアに対する不信感は根深く、その言葉をそのまま信用できるかというと難しいところもありますが、今回の会談は高齢になった島民の方々のことはもちろん、安全保障問題を含む国際情勢を強く意識した会談だったと思います。

結論は時の経過を待たねばなりませんが、それでも総合的に考えると「粘り強く交渉し厳しい判断をしてくれた」と国民の一人として思っています。これは、支持率の高い安定政権であり、かつ長年北方領土問題に携わってきた安倍首相だからこそできたことかもしれません。

やっとぐっすり眠れそうです。温かく支えてくださった方、ありがとう。


追記安倍首相が考える安全保障については以下の記事をご覧ください。これが日本にもメリットがあると思える一因です。

日露首脳会談の意味と「アジアのセキュリティダイヤモンド構想」、インド国会安倍演説

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