【パナマ文書】朝日・ICIJメンバー奥山俊宏「日本政治家の名前は1件も出なかった」
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2016.04.16 | 市民が声を上げ、租税回避防止の機運を盛り上げねばならない追記 |
2016.04.11 | 奥山俊宏編集委員の記事追記 |
日本人政治家・公職者・国会議員家族の名前は1件も出なかった修正 |
パナマ文書で多くの人が知ることとなった、「国際調査報道ジャーナリスト連合」(The International Consortium of Investigative Journalists=ICIJ)。
このICIJのプロジェクトメンバーに、日本からは朝日新聞社と共同通信が加わっている。
そのメンバーの一人、朝日新聞社 の 奥山俊宏 編集委員がパナマ文書やICIJについて語っており、非常に興味深い話をしている。
4月8日放送の『JAM THE WORLD』から書き起こした。
朝日新聞 奥山俊宏編集委員×青木理「パナマ文書とICIJ」
テーマ:「パナマ文書を報道したICIJ国際調査報道ジャーナリスト連合とは一体どんな組織なのか?」
パナマ文書を公開した「ICIJ」とはどのような組織か
非営利の、儲けを目的としない組織です。
ワシントンDCのホワイトハウスの程近くに事務所があります。
元々同じビルの中に「センター・フォー・パブリック・インテグリティ」という非営利の組織があり、そちらが調査報道をずっと手がけるということを、30年近く、1989年、平成元年からずっとやっている組織があるんですけども、その中のひとつのプロジェクトとして1997年、平成9年に発足しています。
私は2010年、平成22年からICIJのメンバーになっております。
2010年から個人としてメンバーでしたけれども、2012年から朝日新聞としてパートナーシップを結んでおります。
共同通信は別途パートナーシップを結んだということになるんだろうと思います。
「ICIJ」の目的は何なのか
調査報道の目的というのは、色んな隠された権力者の秘密とか、世の中に知らされるべきなのに知らされていない不公正なこととか、そういうのをどこかの当局、行政や捜査機関に寄りかかるのではなく、記者が自分たちで暴いて調査して、それを明るみに出していこうというのが「調査報道」で、アメリカではその歴史は長いんですけれども、その中で世界の記者で一緒にやっていけば、一国だけではできないことができるのではないかと考えたチャールズ・ルイスという人が、プロジェクトとして始めた。
今回のパナマ文書も、アメリカやイギリスのジャーナリストが国内だけで取材するのは不可能だと思います。あるいは、今回(パナマ文書を)最初に入手した南ドイツ新聞の記者達だけでこれを取材するのも不可能だろうと思います。まさに世界に跨るような話を協力して取材していくということを目的としています。
もちろん、朝日新聞と共同新聞は競争関係にあると思います。できれば朝日新聞だけで今回のケースもやれれば僕としては嬉しいんですけれども、例えばフランスのルモンド、イギリスのガーディアンとか、そういうところと朝日新聞が競争関係にあるかといえば、そういうことはないわけですよね。
協力できるところは協力していくっていうのが、今回のプロジェクトなんだと思います。
パナマ文書について
2.6TBの電子ファイルの塊です。2,600GB、CDRなら3,700枚位。
量もさることながら、今回の場合、法律事務所のお客さんが世界に跨ってますから、南ドイツ新聞の記者だけでは、到底取材するのは不可能だろうと思います。
(文書自体が)言語も跨ってますので。
パナマ文書をどのように分析しているのか
ICIJで、そのためのDBを作ってます。
普通に2.6TBのデータを検索かけても、かなり時間もかかると思いますし、PDFファイルや画像ファイルもあるので、そういうのは普通の検索ソフトでは難しいんだろうと思うんですけれども、そこを乗り越えるようなソフトをICIJのほうで用意して、それを今回使ってます。
インターネットを介してそのDBにアクセスする権限を、私に付与して頂いて、それを使ってアクセスしています。
有り体に言えば、例えば、名前を検索すると、その名前が入っている文書が出てくる。
ちなみに私の名前で検索すると4件出てくるんですけれども、かつて書いた記事で英語で発信されたものだった。
それは詳しくは申し上げられないですけど、全く別の国の人のことがその記事に少しだけ触れられていて、その人とその法律事務所(モサック・フォンセカ)が取引するにあたって、信用調査の一環として調べた資料として、それはありました。
基本的に共有してます。
取材をする際にも、込み入った取材の場合にはICIJの取材の一環としての取材であるということをできるだけ伝えるようにしている。
はい。
ただ、幸か不幸か日本関係で私共は、例えばアイスランドの首相のような、日本国内の大物政治家と言いますか、そういう人を今のところ見つけられていないので、そんなに海外から関心を持ってもらえるような、日本からフィードバックして海外からも大きく報道してもらえるような情報というのは、掴みきれていないというのが正直なところです。
もちろんフィードバックしてるものはしてますが、そんなに多いわけではないです。
パナマ文書報道のタイミングはどう決めたのか
そうですね。
ICIJのほうで、この日、この時間というのを決めて、日本は月曜日(2016年4月4日)の午前3時でしたけれども・・・アメリカは日曜の午後、昼下がりだったと思いますが、この時間に報道を開始しましょうというのを、色んな人の意見を聞いたうえで決めていました。
そしてそれについては破らないというのは、当然パートナーシップ、あるいはメンバーに入る際に合意しているところです。
「ICIJ」はネットの登場による新聞・雑誌の経営難から生まれた
そういうふうに捉えて頂いていいと思います。
先ほども言った「センター・フォー・パブリック・インテグリティ」というのは非営利の調査報道をやる非営利組織です。
1989年に設立されているので、その種のものとしては一番古いものになるんですが、ここ10年位、リーマンショックの前ぐらい、2006年~2007年くらいから、アメリカの新聞社は特に、インターネットによって広告の収入が奪われて経営が傾いていって、新聞の発行をやめるところもいくつか出てきてますし、そこまでいかなくても、記者を解雇していくと。
そういう中で調査報道をやる記者達を、いの一番に辞めさせる動きが2007年、2008年に相次いでました。
そこで辞めた記者達が、全く関係のない業界に行くか、逆にPR会社の方に回って企業の広報に転職するか、あるいは、調査報道やジャーナリズムに関わっていたいという記者達もいまして、そういう人材が流動化している。
そんな中で非営利の調査報道をやる非営利の組織というのが、雨後の筍のごとく沢山出来ています。
そういうところにお金を出そうという人たちも増えてきています。
調査報道がなくなったら、世の中にとって良くないのではないかという考え方が、比較的アメリカの社会では共有されているように思います。
そういうこともあって、ICIJは優秀な人材を採用することもできているんだと思いますし、お金も集まってくるようになったというのもありますし、新聞社自身がICIJの記事を積極的に使おうという機運も以前よりは盛り上がっているんだろうと。ICIJなどの非営利組織の記事を使っていこうと。ジャーナリズムの倫理や原理を共有しているのならば、そういうところの記事を紙面に載せていいんじゃないか、あるいは放送していいんじゃないかというふうに、多くのマスメディア自身も考え方を変えてきているという側面があるんだろうと思います。
一生懸命やっているが、日本関係の情報は期待しないで
はい。
一生懸命やってるんですけど、国会議員の本人、家族の名前はすべて検索して一件も出なかったですし、見落としているものもあると思うので、もう少し一生懸命やらないといけないんですけど。
あまり、日本関係では期待して欲しくないと思います。
本当に、国会議員の名前を1件1件、同僚記者も探しているわけですけども、結局なかったわけで、それはもう大きな徒労に終わっているというか、骨折り損のくたびれ儲けに終わってしまっているという実情がありまして、それはでも、やっていかないといけないということでやっているんですけども、「なんで日本はないんだ」という声をネット上なんかで頂いてるんですけども、「一生懸命やってます」ということを分かって欲しいなと思います。
奥山俊宏編集委員の記事
租税回避地の秘密ファイル、日本からも400の人・企業
五十嵐聖士郎、編集委員・奥山俊宏
2016年4月4日05時07分
南ドイツ新聞と「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)が入手したタックスヘイブン(租税回避地)の秘密ファイルには、日本国内を住所とする約400の人や企業の情報が含まれている。
ICIJと提携する朝日新聞が分析・取材したところ、政治家ら公職者は見当たらなかったものの、医者や実業家らが資産や利益を租税回避地に移そうと試みていたことがわかった。
兵庫県内の医師(60)によると、東南アジアで病院を開業しようとした際、香港のコンサルタント会社から勧められ、2011年に英領バージン諸島にある会社の株主になった。「病院で利益が出たらこの法人にまわす考えだが、今のところ余裕はなく、メリットは享受していない」という。さらに別の病院も開きたいと考えており、「海外からの投資を集める窓口としても使いたい」と語った。
12年8月には同諸島の別の会社で、日本の私立医科大学の現役教授が筆頭株主になった。この教授によると、抗がん剤の開発に資金を出してくれる人を探していたところ、中国人投資家が応じてくれた。バージン諸島に会社が作られ、そこに特許の権利を移した。将来、開発が実現し、製薬会社に権利を売却できた際に、売却益の1~2割を受け取るつもりだった。
ところが、設立直後、中国人投資家に連絡がつかなくなった。尖閣諸島問題で日中関係が悪化した時期と重なり、この教授は「政治的な事情が背景にあるのでは」と推測する。
知的財産をタックスヘイブンなどに移してその利益への課税額を抑える手法はその年の秋、コーヒーチェーン大手のスターバックスなどで発覚し、社会問題になった。経済協力開発機構(OECD)の主導で規制強化が進められている。
大分県内の実業家(41)は香港のコンサル会社から「前の日本人株主が手放したがっていて、手続きが早く済む」と勧められ、13年6月にバージン諸島の会社を譲り受けた。「中国企業との間で環境関連商品の取引話があり、海外に口座を作る必要があった」という。その後、取引話はなくなり、この会社を利用することはなかったという。
タックスヘイブン、「適法」でも容認されない理由
編集委員・奥山俊宏
2016年4月4日05時08分
「秘密のベール」を売りにしたタックスヘイブン(租税回避地)の内部ファイルがかつてない規模で流出した。事業の実態がない場所になぜ会社を作るのか。財産を隠したり、納税を回避したり、規制をすり抜けたりする意図はないのか。そんな素朴な疑問が、当事者たちに突きつけられている。
タックスヘイブンの利用は直ちに不当とはいえない。専門家によれば、国境を越えた協業を円滑に進めることができ、起業しやすく投資を分散できるという。「悪用しようと思えば悪用できるが、正直な人ならばその利点を正しくビジネスに生かすことができる」。グローバルにビジネスを展開する大手商社のように情報を公開した上で利用する場合もあるだろう。
しかし、従来は容認されていた「適法な取引」に対する視線は近年、厳しさを増している。
法の網の目をかいくぐり、合法的に納税を回避する行為が富裕層や大企業の間で常態化すれば、各国の国家財政が細り、結果的に多くの国民や中小企業にしわ寄せが向かうとの見方が広がっているからだ。
格差の拡大をさらに加速させ、租税制度に対する一般の人たちの信頼を失わせることにもなりかねない。
そうした租税回避について各国の租税当局はたとえ適法であっても「乱用的」と表現し、「断固として対抗する」ようになってきている。
今回、タックスヘイブンに関する秘密の電子ファイルが南ドイツ新聞と「国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)」に持ち込まれたのもそんな国際的な潮流のあらわれともいえる。こうした動きが相次ぐことは、法と税の抜け道をふさぎ、実情に基づいた国際課税のルールを構築する議論をさらに後押しするだろう。
出典:朝日新聞デジタル
日本人政治家・公職者・国会議員家族の名前は1件も出なかった
これらの情報の1つのポイントして、
奥山俊宏氏の今回の発言、朝日新聞の記事によれば、日本人の政治家・公職者・国会議員家族の名前は1件も出なかったということが挙げられる。
奥山俊宏氏の、今回の発言と記事
1 | 「国会議員の本人、家族の名前はすべて検索して一件も出なかった」 |
2 | 「政治家ら公職者は見当たらなかった」 |
パナマ文書は、直ちに不法行為を示すものではない。だから、現時点において法的に一般企業や一般人を責めることはできない。
一方、公職者なら「道義的責任」として追及することもできるだろうが、それが日本においては1件も出なかった。
麻生財務相「租税回避や脱税、国際的に取り組む」
そんな中、日本ではどのような動きがあるか。
麻生太郎財務相は以下の通り、国際的な租税回避や脱税の防止に積極的に取り組む考えを示している。
幸い日本は今年G7議長国であり、来月には伊勢志摩サミットも開催される。
「(パナマ文書の)疑惑が事実であるとするなら、課税の公平性を損なうことになるので問題だ」 | |
「BEPSプロジェクトの成果をきちんとあげると同時に、途上国にもプログラムを広げる。(口座情報自動交換の)国際基準についても多くの国にコミットを促すことが重要だ」 |
参照:麻生太郎財務大臣「事実なら公平性を損なう問題。防止に取り組む」
市民が声を上げ、租税回避防止の機運を盛り上げねばならない
奥山俊宏氏の話は、ICIJの成り立ち、パナマ文書の調査方法や経過、広告収入を奪われた新聞社の動きなど、興味深い内容だった。
奥山氏が語る通り、ネット上では「なぜ日本は報道しないのか」「海外の情報ばかり報じるのはなぜか」というような批判が多いのは事実だ。しかし、パナマ文書はそれ自体が不法行為を示すものではないし、日本の場合、道義的責任を問える政治家・公職者・国会議員家族の名前が1人も出なかったため、マスコミ的には盛り上げにくい流れになっているのも事実だと思う。
それでもぜひ、世界的に格差の拡がりが問題となり、資本主義や国家の在り方までが危機的状況になり始めている現在、この租税回避や脱税を防止するための国際的な取り組みに対する気運を盛り上げて欲しい。
そのために、わたしが参考の1つにできると思ったのは、宮崎哲弥氏の話だった。
宮崎哲弥氏によると、日本の株価が下がると朝日新聞社内では拍手が起こるらしい。朝日新聞らしいエピソードがまた一つ増えたなと思ってしまうのだ。
不正を暴くことに熱心であることは、国民としても有難い。
しかし朝日新聞の記者のみなさんには、報じる際に情報を捻じ曲げたり意図的に偏向させることのないよう、くれぐれもお願いしたい。