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安倍首相、ハンセン病家族訴訟原告団との面会

安倍首相、ハンセン病家族訴訟原告団と面会<談話全文・政府声明全文>

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安倍晋三首相は2019年7月24日、総理大臣官邸でハンセン病家族訴訟原告団と面会しました。

安倍首相は、元ハンセン病患者の家族への賠償を国に命じた熊本地裁判決について、本判決にはいくつかの重大な法律上の問題点があるとしつつも、これまで幾多の苦痛と苦難を経験された家族の方々の御労苦をこれ以上長引かせるわけにはいかないとして、7月9日、控訴しない方針を示していました。

政府の立場における判決の問題点については政府声明が発表されていますので、この記事の最後にご紹介します。

このページのポイント
  1. 安倍首相がハンセン病家族訴訟原告団と面会した。
  2. 安倍首相は、元ハンセン病患者の家族への賠償を国に命じた熊本地裁判決について、いくつかの重大な法律上の問題点があるとしつつ、控訴しない方針を明らかにしていた。
  3. 法律上の問題点については、政府声明で発表されている。
政府の今後の取り組み
  1. 訴訟への参加・不参加を問わず、家族を対象とした新たな補償の措置を講ずる。
  2. 関係省庁が連携・協力し、患者・元患者やその家族がおかれていた境遇を踏まえた人権啓発、人権教育などの普及啓発活動の強化を行う。

安倍首相、ハンセン病家族訴訟原告団と面会

安倍首相は、冒頭の挨拶で次のように述べました。

本日は、こうしてお話をさせていただくため、遠路わざわざお越しいただきまして、誠にありがとうございました。

ハンセン病に対する極めて厳しい差別と偏見は、本日ここにいらっしゃる皆様に対しても向けられてきました。これは、否定し難い厳然たる事実であります。その結果、本当に長い間皆様にとって大切な人生において、大変な苦痛と苦難を強いることとなってしまいました。内閣総理大臣として、政府を代表して心から深くお詫び申し上げます。

18年前の熊本地裁判決の際は、私は官房副長官としてこの問題に関わりました。今回は内閣総理大臣として、皆様が経験された筆舌に尽くし難い御労苦を、これ以上長引かせるわけにはいかない、きちんと責任を果たさなければならないと考えました。先般、判決受入れを決定いたしましたが、それにとどまらず、今回訴訟に参加されなかった方々を含め、新たに補償するための立法措置を講ずることといたします。さらに、様々な問題の解決に向けて、協議の場を速やかに設け、皆様と一緒に差別偏見の根絶に向け、政府一丸となって全力を尽くしていくことをお約束いたします。

今回はその第一歩として、皆様から今までの御経験、思いをじっくりと伺わせていただきたいと思っております。
改めて、皆様が強いられた苦難と苦痛に対しまして、深く深くお詫び申し上げます。
首相官邸

原告団の反応は以下の通りです。

原告団長の林力(はやしちから)さん(94)は「高い見識を持たれ、判決に控訴せず、私たちに光を与えていただきました」と述べた。原告らは涙をぬぐい、「ありがとうございました」と頭を下げ、首相の手を握った。
朝日新聞

ハンセン病元患者の家族、集団訴訟弁護団による記者会見

ハンセン病の元患者の家族や集団訴訟の弁護団は、安倍総理大臣との面会後、都内で記者会見を開きました。

集団訴訟の原告団長で、父親が鹿児島県の療養所に入所していた福岡市の林力さん(94)は「原告みんな、悲しみや差別との戦いの人生があり、それに対して総理からねぎらいのことばがあったのはうれしく思った。今後は私たちの声を十分に取り入れた立法措置を講じてもらいたい。官僚サイドだけで進めては私たちの思いは届かない」と訴えました。

両親が熊本県の療養所に入所していた鹿児島県奄美市の奥晴海さん(72)は「私たちの話を真剣に聞いてくれたと信じている。総理にはもう一歩踏み込み、すべての原告が納得できる差別のない解決をしてほしい」と話しました。

弁護団の共同代表の徳田靖之弁護士は「家族に対する差別や偏見について、国が誤っていたと総理が明言したことは大きく、今後、全力で取り組むと言ったことは評価できる。裁判に参加していない人も含めて、一律に補償することが最重要課題であり、それを実現するのが私たちの使命だと思っている」と話しました。
NHK

ハンセン病家族国家賠償請求訴訟の判決受入れに当たっての内閣総理大臣談話<全文>

内閣総理大臣談話も発表されていますので、全文をご紹介します。

令和元年7月12日
閣議決定

本年6月28日の熊本地方裁判所におけるハンセン病家族国家賠償請求訴訟判決について、私は、ハンセン病対策の歴史と、筆舌に尽くしがたい経験をされた患者・元患者の家族の皆様の御労苦に思いを致し、極めて異例の判断ではありますが、敢えて控訴を行わない旨の決定をいたしました。

この問題について、私は、内閣総理大臣として、どのように責任を果たしていくべきか、どのような対応をとっていくべきか、真剣に検討を進めてまいりました。ハンセン病対策については、かつて採られた施設入所政策の下で、患者・元患者の皆様のみならず、家族の方々に対しても、社会において極めて厳しい偏見、差別が存在したことは厳然たる事実であります。この事実を深刻に受け止め、患者・元患者とその家族の方々が強いられてきた苦痛と苦難に対し、政府として改めて深く反省し、心からお詫び申し上げます。私も、家族の皆様と直接お会いしてこの気持ちをお伝えしたいと考えています。

今回の判決では、いくつかの重大な法律上の問題点がありますが、これまで幾多の苦痛と苦難を経験された家族の方々の御労苦をこれ以上長引かせるわけにはいきません。できる限り早期に解決を図るため、政府としては、本判決の法律上の問題点について政府の立場を明らかにする政府声明次項参照:ブログ主)を発表し、本判決についての控訴は行わないこととしました。その上で、確定判決に基づく賠償を速やかに履行するとともに、訴訟への参加・不参加を問わず、家族を対象とした新たな補償の措置を講ずることとし、このための検討を早急に開始します。さらに、関係省庁が連携・協力し、患者・元患者やその家族がおかれていた境遇を踏まえた人権啓発、人権教育などの普及啓発活動の強化に取り組みます。

家族の皆様の声に耳を傾けながら、寄り添った支援を進め、この問題の解決に全力で取り組んでまいります。そして、家族の方々が地域で安心して暮らすことができる社会を実現してまいります。
首相官邸

政府声明<全文>

政府の立場における判決の問題点については、以下の政府声明で明らかにしています。

令和元年7月12日
閣議決定

政府は、令和元年6月28日の熊本地方裁判所におけるハンセン病家族国家賠償請求訴訟判決(以下「本判決」という。)に対しては、控訴しないという異例の判断をしましたが、この際、本判決には、次のような国家賠償法、民法の解釈の根幹に関わる法律上の問題点があることを当事者である政府の立場として明らかにするものです。

1 厚生大臣(厚生労働大臣)、法務大臣及び文部大臣(文部科学大臣)の責任について
(1) 熊本地方裁判所平成13年5月11日判決は、厚生大臣の偏見差別を除去する措置を講じる等の義務違反の違法は、平成8年のらい予防法廃止時をもって終了すると判示しており、本判決の各大臣に偏見差別を除去する措置を講じる義務があるとした時期は、これと齟齬しているため、受け入れることができません。
(2) 偏見差別除去のためにいかなる方策を採るかについては、患者・元患者やその家族の実情に応じて柔軟に対応すべきものであることから、行政庁に政策的裁量が認められていますが、それを極端に狭く捉えており、適切な行政の執行に支障を来すことになります。また、人権啓発及び教育については、公益上の見地に立って行われるものであり、個々人との関係で国家賠償法の法的義務を負うものではありません。

2 国会議員の責任について
国会議員の立法不作為が国家賠償法上違法となるのは、法律の規定又は立法不作為が、憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制限するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などに限られます(最高裁判所平成27年12月16日大法廷判決等)。本判決は、前記判例に該当するとまではいえないにもかかわらず、らい予防法の隔離規定を廃止しなかった国会議員の立法不作為を違法としております。このような判断は、前記判例に反し、司法が法令の違憲審査権を超えて国会議員の活動を過度に制約することとなり、国家賠償法の解釈として認めることができません。

3 消滅時効について
民法第724条前段は、損害賠償請求権の消滅時効の起算点を、被害者が損害及び加害者を知った時としていますが、本判決では、特定の判決があった後に弁護士から指摘を受けて初めて、消滅時効の進行が開始するとしております。かかる解釈は、民法の消滅時効制度の趣旨及び判例(最高裁判所昭和57年10月15日第二小法廷判決等)に反するものであり、国民の権利・義務関係への影響が余りに大きく、法律論としてはこれをゆるがせにすることができません。
首相官邸

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